FEATURE

「純粋経験」を求める人、伊藤敦子とitoatsuko

■哲学用語と、拾った石

若かりし頃、哲学書の中で目にした難解な単語。
その意味を、彼女は今でも追い続けている。

「当時、自分にとっての '心地よいこと' が、'身体で考えること' だという直感があったのだと思います。
"純粋経験" という言葉に魅かれ、修行のような毎日をはじめることで
その先に答えがあるような気がしていました。

今もその意味が定かかといえば、わからないのだけれど、
例えばヤスリ掛けをしていて、考えるでもなく '自分のかたち' のようなものが出現するとき、
手や頭や心が一体になって仕事しているような感覚になります。
これに関しては日々、そして今後もずっと何かしら発見があるのが楽しみです」

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静かな林の中、坂道を登りきった斜面に立つアトリエの、その片隅。
あちこちに造作なく置かれている石ころや鉄くず。

「他人から見たら塵のようなものでも、
自分がどうしても気になるものは、こうして拾ってきては
時々手に取ったり、眺めたりしていますね」

その自然物の無作為さ、思惑のない佇まい。それは、彼女の作品世界そのもののように思われた。

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■教会の壁、レオナルドが歩いた石畳


イタリアの宗教絵画や映画「ノスタルジア」の世界が大好きだった彼女は、
25歳でフィレンツェに渡り彫金を学び始める。

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フィレンツェの金属工芸家、故・Bino Bini氏のもとで基礎を学びながら
広場の石畳を修復している職人の仕事の傍らや、
お気に入りのフレスコ画のある教会に入り浸り、
その空気に触れ続けることで、限りのないような時間を過ごした。


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「かつてレオナルド(ダ・ヴィンチ)が歩いたかもしれないような石畳を、
たぶん昔と同じようなやり方で、職人さんがこつこつと地道に直していて。

日々ほんの少しの歩みしかないようなその作業に俄然興味を覚えました。
長年かけて石のすり減ってくる質感も好きだけれど、その繰り返しの途中、
連綿と続く歴史のあるポイントの、その場に立ち会えているような感じもおもしろくて


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手を動かすこと。繰り返すこと。そうして、体で覚え、体で考えること。

そんな「職人」の気質を持ったその土地が、彼女の性分にはよく合っていたのだと言う。


■絵画とスケッチ


帰国後、縁あって3年間師事したWahei Ikezawa氏のもとでは、その大胆な作風に大きな影響を受けた。

「やりたい事をやれば良いんだ、っていう気持ちになれたかな」

Wahei ikezawa氏の作品

当時の彼女は、作家「伊藤敦子」として、オブジェにも近い、アート性の高いジュエリーを
じっくりと制作しては公募展で発表するという活動方法をとっていた。


伊藤敦子としての初期作品

伊藤敦子としての初期作品

「伊藤敦子として作っていたのは、ただただ作りたいもの、という感じ。そこに使い手の存在はなくって、ひたすら自分の世界。長い時間をかけて、ちょっと苦しんだりもしながら・・・」

時に植物のような、時に建築物のようなフォルムに形成された金属。
表面に削りを施す事や、時には火を入れて焦げを出す事で思い思いのニュアンスを与える。

イタリアの恩師から学んだ彫金技術と、日本の恩師に感銘を受けた大胆な感性。


枠に囚われない大胆さの中に、しんとした侘び寂びを感じさせる、
その作風の根幹が見えて来た。



■伊藤敦子とitoatsuko


作家「伊藤敦子」としての制作とは別に、植物をメインモチーフにした 「いとうあつこ」時代を経て、
ジュエリーブランドitoatsukoとしての活動を始めたのは2011年。

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誰かが身につけて初めて完成するような、実際に使われることを想定した制作が始まった。

「身につける人のことや服飾などを考えながら作るのは、また違った喜びで。
手がどんどん動いて、本当に楽しんでいます。
そして、今回振り返ってみると、作品として(伊藤敦子/ いとうあつことして)制作してきたもののエッセンスが滲んでくるものだと改めて思います」

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ちょうど絵画とスケッチのように。

生みの苦しみを伴う「作家・伊藤敦子」の世界と、
手の動くに任せて軽やかに描き出される「デザイナー・itoatsuko」の世界。
そのふたつを行き来する事で、互いが響き合い、反映し合う。


響き合いながら、彼女自身もあずかり知らない無意識の造形、質感が生まれて来る。

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■弱くて強く、奥ゆかしい形

「きちんとしたもの、わかりやすいかたちより、
ちょっと最後が読めないようなそんなものに魅かれるのかもしれない。
楕円は曖昧なところもありつつ、秘めたる強さみたいなものも感じて、
そんなことからか、今は楕円にはまっています」

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とりどりの楕円形をした、ピアス、ブローチ、ネックレスにバングル。
それらは、身につける人の装いにどんなリズムをもたらすのだろう。


 

itoatsuko  Daen展
9月8日(火)~9月17日(木)
itoさん


itoatsukoが描き出す多様な楕円たち。
上質で構築的なOyunaのカシミアウェアとそれらが出会った時、
二つの世界が見せる景色とは。


Oval=楕円=Daenをテーマにしたitoatsukoのシルバージュエリーと、
Oyunaの秋冬コレクションを同時にお披露目いたします。
どこかに共通点を持った二つのブランドの、
新鮮な関係性を是非ご覧ください。


12日(土)、13日(日)14:00~19:00    作家在店


(文・國府田真由/撮影・澤木美奈)


 

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