FEATURE

HAyU -田舎と都会のあいだ、インテリアとアートのあいだ‐

《HAyUはどこからやって来たのか?》

販売会をすれば長蛇の列、オンライン販売はものの数分で売り切れ御免となる大人気ワイヤーアーティスト、HAyU(ハユ)こと小川学(おがわ まなぶ)氏。


ネコ、馬、ラクダにライオン、無造作なドローイングのようにワイヤーを駆使して作り出される壁掛けオブジェは、今や多くの人々を夢中にしている。

彗星のごとく現れた、と言いたくなるようなスピード感で走って来た彼に、今まで語る暇さえなかったバックストーリーを改めてじっくりと伺ってみた。

 

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《運命の鍵を握る人々》

HAyUの運命の扉を開いたいくつかの鍵。
彼の制作を最も近くで見守り続ける奥様、香織さんもそのひとつを握っていた。


「最初に妻から展示を勧められた時は、恥ずかしいから持っていかないで!という感じでした(笑)。
作った物は地元のバザーにでも出そうかなと思っていたくらいなので、東京のショップで展示販売するなんて…」


 

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自身の制作に対してあくまで謙虚な小川氏をもどかしく感じ、彼の作品を一度きちんと人に見てみてもらう場が必要だとかねてから思っていた香織さん。
そんな彼女の後押しによって、io  H.P.FRANCE(東京・表参道)にてHAyUとして初めて展示販売会を行ったのは、実にたった約1年前、2017年5月のことだった。


今となっては信じがたい話だが、売り上げ数から言えば当初の販売会は大成功を収めたわけではなかったという。

 

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しかしながら、通りがかった著名なインテリアスタイリストやショップバイヤー、ヘアメイクアーティストたちは、いち早くHAyUの魅力に気がつき始めていた。
目利きの人々が次々にその作品を購入していくのをまのあたりにした時、次の扉が開いた。


「自分の作った物がプロの方にも認めてもらえるんだという事を知って、そこで初めて、やるしかない、これは頑張らないと!という気になっていきました」

小川氏にワイヤーアーティストとしての自信と自覚をもたらす鍵となったのは、
彼の知名度に関わらず作品の魅力を見逃さなかったプロフェッショナル達だったようだ。


ではそもそも、人々を惹きつけるこの作風はどのようにして生まれたのだろうか?

 

《文字通り、違う‘畑’にいた自分》

茨城県の農家に育った小川少年は、カルチャー雑誌を読んだ事をきっかけに都会の生活、海外の文化に興味を持ち、強く憧れを抱くようになった。あたり一面に広がる田んぼの向こうの世界をいつか見てみたいと願っていた。

 

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そんな思いから留学したニュージーランドで、海外では現地在住の日本人向けに美容師達が活躍していることを知った。美容師になれば色々な国で仕事が出来るかもしれない。
帰国後、上京した小川青年は美容師の道へと進んだのだという。


「美容師として勤め始めた当初、『小川くんは電話に出なくていいよ』と言われたんです。言葉が訛ってるから(笑)」

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夢にまで見た大都会は、厳しくもありそして大変に刺激的であった。いつしか海外の憧れも忘れ東京で美容師の仕事に打ち込むうちに、気が付けば十年の月日が過ぎていた。

年齢を重ね、再び未来の自分を思い描こうとした時、改めて故郷に思いを馳せるようになる。
若い頃はあんなに飛び出したかった田舎での生活が、今の、これからの自分には必要に思えたのだった。

ついに香織さんと共に茨城へ戻り、美容師ではなく家業の農家を継ぐことを決意した小川氏。
二人の男の子に恵まれ、早朝からの畑仕事と子育てに明け暮れる生活は、東京での日々とはまた違った喜びと困難に満ちていた。



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そんな風にして、都会も田舎も味わい尽くした小川氏に、まさにHAyUの原点となるあるきっかけが訪れる。


「新築した自宅の壁の大きなスペースに、何かアートを飾りたいな、と思ったんです。 でも、田舎だから気の利いたアートなんてまわりに売っていないんですよね(笑)。
かといってプロではないのに自分で描いた絵を飾るのも…と考えた時、たまたま身近に園芸用のワイヤーがあって。あっ、これで何か作ってみようかなと」


 

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幼い息子たちと足しげく動物園に通っていた時期でもあったため、大人も子供も楽しめるモチーフとして動物たちの姿が自然と思い浮かんだ。


壁面に飾ることが出来て、立体的であり、もし落下しても子供たちに危険のないもの。

ワイヤーアートは実に理想的な思いつきだった。

 

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愛する二人の子供たちが握っていた鍵、父として子を思いやる気持ちが、HAyUをスタートさせる最初の扉を開けてくれたのだった。


 

《行き来しながら進んでいくこと》

「もともとアートの世界は好きですが、専門的に学んだ人や、作家として長くやっている人がいる中で、そういった経歴のない自分には何が出来るのかなという事を考えた。やっぱり自分のやって来たこと、自分の背景を生かすしかないと思いました」

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そもそも最初に自宅に飾るアートを自作しようと自然に思いついたことは、野菜にしろ花にしろ、‘買うより作る’という田舎ならではの感覚であるように思うし、

一方では東京で美容師として体得していった素養、それらも今思えば、現在のクリエイションにとってなくてはならない財産となっているのではないだろうか。

ヘアカタログの写真を三次元として再現するセンスは、動物図鑑を資料に立体のオブジェを作り上げていく過程で発揮される。
ひとりひとりの生活に合わせてヘアスタイルをデザインする精神は、さまざまな空間、多様なインテリアを想定して制作される作品に生きている。

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「僕は自分をアーティストだとか、芸術家だとは思っていないです。だからHAyUの作品を飾ってくれる人には、自由な発想で楽しんでほしい。壁の色や光の具合、インテリアによって好きなようにアレンジしてもらいたいと思います」


厳たる芸術家とも、ファッショナブルなデザイナーとも違ったスタンスで物作りを楽しめる柔軟さ。
根っからの都会派でも、田舎万歳の自然崇拝でもなく、両者の感覚を行き来するようなバランス感。

農家で生まれ、都会に憧れ、美容師になり、田舎に戻り、家業を継いで、そしてある日、自分と家族のためにふっとワイヤーオブジェを作り始めるようになった、そんな小川氏だけの歴史が彼をここまで連れて来た。

まわりくどいようでまわりくどくない彼の半生は、くねくねと紆余曲折しながら気がつけば意味のあるかたちを成しているワイヤーオブジェのようだな、と思った。

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<終>


聞き手 : 土村真美、國府田真由
テキスト : 國府田真由
撮影 : 井田和恵



 ≪HAyU 販売会情報≫
巡回展'Law Lan Palace'


H.P.DECO好奇心の小部屋  横浜店(045-534-8548)
6月23日(土)、24日(日)

H.P.DECO好奇心の小部屋  大阪 No2(06-6634-0620)
7月13日(金)、14日(土)

H.P.DECO好奇心の小部屋  福岡店 (092-716-8202)
8月11日(土)、12日(日)

H.P.DECO好奇心の小部屋  二子玉川 店(03-6411-7128)
10月13日(土)、14日(日)


※各会場ともに、抽選での販売となります。
詳しくは各店舗へのお問い合わせをお願いいたします。

 

 

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